ひとり日和
- 作者: 青山七恵
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/03/05
- メディア: 文庫
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今更ながら、五年前の芥川賞受賞作となった青山七恵さんの『ひとり日和』を読んだ。
実家を離れ、東京に住むことになった「わたし」は、
遠縁のお婆さんと、二人だけの生活をはじめる。
それ以前、「わたし」とお婆さんには面識が無く、
二人の生活は微妙な距離感でスタートする。
日常の場面を切り取り訥訥と進行するストーリーは、
読んでいて、せつない。
それは「わたし」に、若者が持つと思われる情熱がないからだし、
端的に言えば「わたし」の生活がスローだからだ。
「わたし」たちの住む家の、目と鼻の先には駅のホームがある。
その駅や走り行く電車は、時たま、
“社会=外の世界”を具現するものとして登場する。
家にいると、電車の音やアナウンスの声が絶え間なく聞こえてくる。
快速や特急が通るたびにガラス戸ががたがた揺れるが、もう慣れた。
フリーターと老人の家にはこれくらい喧騒があったほうがいい。
上の引用はまさしく、そんなような場面である。
「わたし」は社会の振動を感じ取ろうとしない。
それが目の前に存在するにも拘らず。
外界に対して耳を傾けることに、もはや何の価値も見出せなくなっている。
それどころか、それらは耳障りな喧騒でしかない。
そういうのって、スローだな、と思う。
この「遅さ」は、なんだかすごく哀しい。